『日常の風景>1』の半日前、午前中。
・・・とある人物に某吾妻さん家で萩堂が変態変態言われてんのは、・・・自分のせいか・・・
場所/車~萩堂天祢の家
時/『日常の風景>1』と同じ日の午前中。
(sayuri様歓迎パーティ前日)
登場人物/萩堂天祢
ジャンル/日常
形式/SS
アップテンポの曲が車内には流れている。
萩堂天祢がちらりとデジタル時計を確認すると、時刻は昼を回っていた。
助手席には白いビニル袋があり、中には雑誌といくつかの食物が透けて見えている。
雑誌は銀幕ジャーナルと、昼食として買ったコンビニのオニギリ三つと唐揚げ弁当、そしてお茶だ。
「彼」の食事なら気を使うが、自分の食事はこんなものである。
・・・自分の食事などどうでもいい。
それより今何倍も大事なのは銀幕ジャーナルだ。
「さて、これをどこで読もうか…」
ぼそりと漏らし軽く思考を巡らせる。
今日中に行く予定を立てたとはいえ、今すぐ「彼」の住居に直行するのは無い。居るとは限らないが、もし彼がこれを見たならば、内容が内容だ。焦った声付きで確実に奪いに来るだろう。
今、銀幕ジャーナルが何処でも売っているとはいえ自分は早く読みたいのだ。
邪魔されるのは避けたい。
他、落ち着いて読みたいところからカフェ・公園などの公共施設もない。
近いし、やはりここは順当にマンションに寄るかな。
そう結論をつけハンドルを右にきった。
時間はある。普段はとても忙しいが、その忙しさを作って居るのはほとんど自分自身だ。
―――いざという時、時間が作れないようでは困る。
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萩堂天祢は、「彼」の一番のファンは自分だと自負している。
初めて彼の音楽に触れたのはもう6年以上も昔の話だ。
知人に誘われ、突然現われた天才のコンサートといううさん臭いステージを見に行った。
その頃の自分は一応バイオリニストを名乗っていたが、心から音楽を愛していたわけでもなく、はっきり言って真剣に聞くことも弾くことも長くなかった。
そのくせ、あのステージの直前まで彼を軽くみていたのだ。
所詮、ぽっと出の子供の演奏だ、と。どんなパフォーマンスをするか知らないが、今に消えるだろう、と―――
今考えればなんとも可笑しく、愚かしい考えだ。結果として自分は彼に魅せられ、即座にバイオリニストの看板を下ろして無理矢理マネージャーにまでなったのだから。
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場所はマンションの一室。
来栖香介の、ではなく、萩堂自身の住居だ。
毎日必ず行く彼の住居に比べれば狭いが、それなりのランクの一室である。
ただし、ほとんどあっちに掛かりきっているためか案外埃っぽく、軽く散らかってもいる。わざわざ掃除することも億劫だ。
いつも自分の世話を鬱陶しがる彼にはとても見せられない部屋である。
まぁ、子供じみた意地とめんどくさがる性格を併せ持つ彼のことだ。見に来ると言うわけもないが。
大体、ここの住所を記憶しているのかも怪しい。
まずテーブルに袋を置く。
ついでキッチンにておざなりに手を洗うと、ハンカチで手を拭い雑な動作でダイニングの椅子に腰を下ろした。
最初昼食を片付けようかと思ったが、我慢出来ずに雑誌を取り出す。
否定できない胸の高鳴りを感じながら、慣れ親しんだ雑誌の構成、あたりをつけて記事を開いた。
萩堂天祢は知っている。
今誰よりも気にかける存在である「彼」、来栖香介と名乗る青年が逃れられず参加した、性格からは不似合いで、・・・実際は素晴らしく「似合う」一つの事件のことを。
そのページ、
見出し語にはこうあった。
「切り裂きジャックと――――
to be continued!!
(以下、『日常の風景>1』に続く)
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