彼は、決めろ、と言う。
オレはそうしたいのだろうか。わからない。本当はなにもわからない。わかりたくないのかもしれない。考えを端から音楽がかき乱していく。バラバラと落として消していく。オレはそうしたいのだろうか。バラバラに。消えたい。消えたくない。しゃがみこみたい。眠い。ローラはどこ?
映画の世界に憧れていた。母さんが連れて来てくれた。知らないと思っていたのに。いつも哀しそうな目をしていた。謝りたかった。けれど触れたくなかった。でも知らないと思っていたのに。
ここに来る前から知っていた。
字幕のない映画の世界。理解のできない世界。オレはただ眺めているだけだった。入れなかった。わからなかった。何を考えていたのか思い出せない。本当は逃げ出したかったのかもしれない。逃げ出した。止めた。声を消した。滅茶苦茶な音で塗りつぶした。動く絵だけを見ていた。心地いい牢獄。いつの間にかオレは映画を見ていなかった。オレの中に映画を作って壊れたふりをしていた。
そうしたら母さんが壊れた。映画の中みたいに劇的に。真っ赤に。ぐちゃぐちゃに。知っていた。ああいうのはたくさん見たことがあった。スナック菓子を口に詰めながら眺めた銀幕の内側で。嘘のような最高のリアル。
あんなことが起こるなんておかしい。いつの間にか加わることを止めた世界に居た。終わらなかった。母さんが死んだのに何も終わらなかった。オレの中の映画も目の前で流れる映画も溶けあって母さんはその中に飲み込まれてしまったんだ。オレも飲み込まれてしまった。そういうことだと思った。
だからそういうことにした。笑った。大声で。罵った。喧嘩した。暴れた。汚れた。狂った。前よりもずっと。そういう風にした。そういうことにした。壊れても音楽は変わらない。まだ聞こえる。まだ流れる。安心した。ローラも居た。消えない。大丈夫。大丈夫。大丈夫なんて嫌だ。
オレが大丈夫なんて嫌だ。オレはどこかで怖がっている。怖がっているのだと思う。
現実が追い付いてくる。来なくていい。ずっとこのままでいい。
思い出す。彼の作った光景は綺麗だった。
全然違った。母さんの時と全然違う。羨ましかった。どうして? あの人と母さんと何が違ったのだろう。違ったのだ。魔物に殺されることができなかった。母さん。ずっと哀しかったのに。殺された。血と肉をぶちまけて。可哀想だ。違う。オレのせいだ。オレは?
オレは?
オレはどうしたい? 殺されたい。
終わりたい。終わりたくない。考えたくない。頭が痛い。考えたくない。考えない。終わり。終わる。おやすみ。ばいばいおやすみ。おやすみなさい。キスイ。
……そう思っていたのに。
あの子が死んだら終わるんだって。
あの子が死なないと終わってしまうんだって。
そんな話を聞いた。
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