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遊楽日記
焦らず気負わず気ままに迷走中 
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カツリと床で硬い音が跳ねた。

反射的に見下ろした視界の中で、黒い小袋から転がり出た真珠が黒いブーツ横で止まる。

ロザリオを引っ張り出した拍子に落ちたらしい。ひとまず自分の首にロザリオをかけると、香介はそれを拾い上げた。


―――ねぇ香介、神様ってどこにいるのかしらね

それを見て思い出すのは、聖母の名を持つ少女。


ゆらり、と真珠に光が滑る。

あの夜、手の中で虹色に見えた真珠。病理を纏っていた幼い金髪の少女の贈り物。
蛍光灯の白々しい光を受けてなお幻想的に美しく、それは未だ香介の手の中にある。

「慈悲に満ちた絶対の神などいない…らしいぜ、マリア。」

―――あの夜と違う返答をぼそりと呟いて、零れ落ちた人魚の涙を握りこむ。

閉じ込めたくなるほどの執着は、未だ見つかる気配もない。

 



香介がそれを壁に掛けたコートのポケットに放り込んだとほぼ同時、騒々しく楽屋の薄っぺらい扉が開かれ相変わらずのスーツに皺をよらしたマネージャーが飛び込んできた。

「…来栖さん、何でまだこんなところに居るんですかっ!もう本番始りますよ!?」

ナイトメアが滅びた空虚な月の夜から三日、今日がコンサート当日で本番はもう直前だ。

秒読みの本番に欠片も焦った様子がない香介も、本番に備えて普段着には向かないコンサート衣装を纏っている。
黒を基調としたどこか聖職者をイメージさせる衣装と、色を染め変えた髪と目。そう派手ではないものの人を選ぶその格好が似合うのも、不名誉極まりないとはいえかつてチャイナドレスさえ着こなした容姿のお陰だ。

「うるせぇな、すぐに行くっての」
うんざりしたように髪をかき上げようとすれば「セットが乱れる」と即座に手を掴まれた。
「…どうせ歌ってるうちに崩れるだろ?石みてぇに固まって歌うわけじゃねぇんだから」
「ステージに上がった瞬間から乱れててどうすんですか!私の努力を無駄にしないでくださいっ!…ほら、早く行きますよ!?」
「だから行くって――」
「急いでくださいっ!」

正直、立ち話する一瞬も惜しいのだろう。
そのまま強引に楽屋から連れ出されれば、殺気立つそこは戦場だった。

すれ違うスタッフ誰もが挨拶の余裕さえなく足早にすれ違う。
飛び交う声は最初から喧嘩腰で、どこか面倒そうな香介に射殺しそうな視線を投げかけてくるものも居る。
香介は意識することも無く尽くあらゆる視線を黙殺し、とりあえず腕を振り払って足を速めた。

楽屋からステージ裏までは遠くない。
既に香介を除いたステージに上がるメンバー全員が揃っている。

二人を出迎えたのは待ち構えていたらしいギタリストの険悪な視線だった。
「…やっと来たか来栖香介!?アンタの我儘に合わせてこっちは死ぬ気で開演間に合わせたつもりなんだが!?」
そのアンタが遅らせる気かっ!と視線同様険悪な言葉が突き刺ささる。彼ともいい加減長い付き合いだが、だからこそ少しでも足を緩めれば即座に手の楽器で殴りかかって来そうだった。

そもそも、こう舞台裏が殺気立っているのは香介が突然曲目の変更を言い出したせいなのだ。

曰く、「歌いたい曲がある」と。
三日前珍しくリハーサルに現れたと同時香介が言い放ったその一言は、正に地獄絵図を引き起こしていた。
それぞれに書き起こしたらしい全くの新譜をそれぞれの共演者に押し付けて、コレが無いと歌わないとまで言い放ち。…どれだけ身勝手なのかと思われたとしても、それでも要望は叶えられこうして開演は間に合っている。
それはここ数年香介の我儘に付き合わされ続けてきたバックバンドと、此処のスタッフの実力だろうか。

そのまま噛み付いて来るギタリストと適当な言葉を交わしながら、既に意識は「音楽」に向かっていた。

…楽譜に起こした曲は「Prayer」 虚ろを抱えて祈る者の曲。

それがどんな曲であっても、香介は一度創りだした曲は大抵一音違わず忘れることはない。

例外は昔熱に浮かされたまま弾いた一曲だけ。

頭の中に張り付いたメロディをそのまま楽譜に書いて、楽器ごとにアレンジを加える。
ひたすらに繰り返してきた、「音楽」という作業のひとつ。

時折、実の父親に押し付けられた歪んだ虚像から抜け出したはずなのに、未だこうして音に浸かっている自分を嘲笑いたくなることがある。
何処に居ても、何をしても、不意に身の内に湧き上がった「音」に絡めとられる感覚。何よりも歌を優先する染みついた生理反応。
まるで本当に「楽器」だと、自嘲さえするこの身が厭わしくてしょうがない。
いっそこの手も喉も全部潰して放り出して、全部忘れられたら楽だろうに。と。
…それでも、絶対に離れられないと知っている。


―――だから今、暗いステージに上がる。


一番客席に近く孤立した立ち位置に立つ。

緊張感に満ちた闇の中で、一気に開けた空間と、一瞬ざわついた雰囲気を感じた。

低い場所にずらりと並ぶ誰かも、背後のバックバンドも、自分の立ち位置を確かめるように痛いほどに意識する。


ゆっくりとステージの明度が上がっていくにつれて、

身構えるように客席のざわめきが引いていく。


―――まだオレがアイツの歪んだ妄想から抜け出せていないのだとしても、

―――今ここでこの歌を歌いたいと思うのは、やっぱりオレ以外の誰でもないんだろうな


諦観にも近い思考はそこで終わらせ、目前を見据え静かに息を吸い込んだ。



観客がまだはっきりと人影をとらえきれないだろう瞬間に、

自身の呼吸で、

自身の意思で、

衝動が命じるままに来栖は歌をはじめる。


『If I'm an apostate,

  obedient saints blame me the same as you did―――――!』


異端と祈り、切望と緩やかな絶望。

その先に少しでも何かを見出すことが出来たなら

自分さえも容易く手放してしまうこの空虚で曖昧なものが、それでも失いたくないと思えるものができたなら。


―――その時一体、オレはどうするんだろうか。


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