遊楽日記 |
焦らず気負わず気ままに迷走中 |
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農作業である。
これまでの人生今まで全くこれっぽっちも縁がない。野菜?なにそれ全部木に成ってんの?の世界だ。それは冗談にしても、…とにかく縁がない。
保育園も幼稚園も縁がなく、義務教育はサボりきり、実は高校も大学も受験さえしていない香介だ。体験学習で土に触れた記憶もなく、本やTV、たまに訪問する天人達から得た知識で農作業がどういうものか知ってはいるものの、実際に畑を耕したのは初めてだった。
持たされた鋤は冗談抜きで重かった。扱いづらかった。穏やかな、しかし逃亡を許さない立ち姿でこちらを眺めていた体格のいい男を香介は本気で凄いと思ってしまった。
でもうんざりだ。もうやりたくない。腰痛いし。
それに手を傷めないために手袋して振っていたのだが、それでもじんわりとした痛みを得てしまっている。正直言って、これ以上手を痛める可能性には耐えられそうにない。
というわけで、得体のしれない神父と別れた後、香介はさっさと家路についている。
悪くない夜だ。珍しく風も涼しく、夜空にはくっきりと月が出ている。
ハザードの痕跡を示すように窓のない家もいくつか見てとれるものの、久しぶりに静けさを取り戻した住宅地は穏やかな安らぎを漂わせているようだった。
「…今度会ったら嫌みの一つくれぇ言われそうだけど…まぁ、いいか。」
脳裏に医者を名乗った金髪の男の姿が過らないでもない。
置いてきたルシフを思い出さないでもない。
だがまぁ、あの医者とは思えない武装からして案外逞しそうだし、ルシフはいつも通り自力で帰還するだろう。
少々強引にこじつけた気もしないではないが…とにかく、もう帰って寝ようと決めている。
(…腹減った。…まだ萩堂居るかな。)
頼んでもいないのに夕飯作って待っているのかもしれない。
しかし居ないのかもしれない。その時はさっさと寝てしまおう。
あっさりと思考を切り替えてそんなことを考えながら、ほとんど無意識に染みついた旋律を口ずさんでいた。
穏やかな夜に、尾をひく静かな旋律がとけこんでいく。