遊楽日記 |
焦らず気負わず気ままに迷走中 |
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ガギャれり がギゃり
気がつけば血と泥の中に立ち尽くして居た
空は―――違う。空は無い。空間の壁は重苦しい赤と黒。きっと腰までを埋めるこの血と泥と同じモノ。
生温く重苦しい圧迫感。血と泥が下肢を封じている。
――匂い。臭い。…わからない。そんなモノがあるのだろうか。
これは夢だ。香介は思う。
がぎャがギゃが・ギゃ
どこかで耳障りな不協和音が鳴っている。
ぎりはぎりぎのりぎりぎりこ。
泥の中の血の中のどこかで不協和音が鳴っている。
止めろ、そう怒鳴った。――はずだ。
しかし、声は不協和音にかきけされてしまう。
思わず、両手で両耳を塞ぐ。
泥と血の中に半分埋まっていた手は泥と血に塗れていた。
髪に汚い色が付くと少し気になったけれど強く強く手を頭に押しつける。
しかし不協和音は止まらない。
ぐァぎゃギャきぃきャいきゃいキィきいキイイイイイ。
吐き気が酷い。いっそ内蔵ごと吐き出せば。
イアアアアアア!
高い高いまるで誰かの悲鳴のような音がしつこい。ずきずきと頭痛が始まる。
アア、アアア、アアアア―――
いやしかし。少しづつ少しづつ不協和音は消えて行く。
ほぅ――――と。安心するべきなのに。胸の中で大量の虫が這い出したようなおぞけを伴う不安が急激に広がって行く。
きぃりけ、るいぎ罪のイ
―――聞きたくない。
それは、確信。
音の多重で多い隠されていた言葉が、声が、光が、熱が、
――――聞きたくない。
聞いたら駄目だ。
わたしはギャえイイア
――その声が告げるのは、
血の中の泥。泥の中の血が視覚を圧迫する。
ああ、この中に飛び込んでしまえば――
クルス。そう耳元で囁く声がする。
きっと何も聞こえなくなるだろう。
酷い色に塗れてしまうだろうけれど、聞きたくない。
お前の――
ずくずくと血と泥が蠢いた。増して行く。重さと量を増して行く。まるで誘惑するように。
私と―――の
――駄目だ。
見る間に腰を越え胸元を覆い泥と血が増していく。
聞く間に一音一音と不協和音が消えていく。
思い出したくない
だから俺は
――――ブツリ
気がつけば、香介はカーテンの隙間から伸びる光をぼぅと見つめていた。ふと瞬いて、ベッドの上に身を起こし髪をかきあげる。
――嫌な夢を見ていた気がする。
それを証明するように、じっとりと嫌な汗をかいていた。妙に胸が気持ち悪い。
ギャイ、と床で声がした。
「・・・あ?」
見れば、フローリングの床の上からルシフが見上げていた。
珍しい。ハザードかスターでもいない限り滅多に姿を見ないのに。
真っ白な夢喰いの生物は、今、無表情ともいえる無機質な目でじぃと香介を見上げている。
「・・・・・・なんだよ・・・?」応えはない。
しばらくすると、ルシフはふいと立ち去ってしまった。
「・・・・・・変なヤツ・・・」
ぼんやりと呟く。
――夢の内容は、全く思い出せなかった。
END.