「……どうして誰も気付かない」
デパート、だろうか。枠内は白々しい明るさに満ちている。
磨かれた床。磨かれた壁。取り澄ましたマネキンと、色鮮やかなドレスを封じたショーウィンドウ。それらを区切るように底の浅い人々の影が張り付いている。
奥の壁に沿って並ぶ硬質な長椅子。一つに少女が深く腰掛けていた。頭を重く垂れている。流行りの形に整えられた黒髪と淡い色合いの服。投げ出された白い腕。躰の中心を染め、仰向けの手のひらを小さく汚し、脚を伝い長椅子の影に溶ける赤い液体。
彼女は磨かれた床や壁や長椅子と同じ質感を持っている。くっきりと輪郭を浮き立たせ、静的で、無機質だった。
……寒々しいまでに死が際立つ写真。
ピントは彼女に合わせられている。通り過ぎる人々はほんの少しだけ輪郭が淡い。
――だから? 違うだろう。
写真の中、存在の薄い人々は、ただ彼女を見ないだけ。
見ても、気付かないだけ。
今この時この世界で、彼女の死を知っているのは私と……この写真を撮った何者か、だけなのだろう
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